これまでの解決支援事例
外国につながる子どもは、来日した経緯やこれまでの生活状況などによって複雑な課題やニーズを抱えている場合があります。さらには、外国籍の子ども特有のニーズは周囲に理解されず、見過ごされてしまうこともあります。
本ページでは、Children Across Borders(CAB) もしくはISSJが実際に取り扱った事例をご紹介します。
フィリピン出身の子どもの国籍取得を支援した事例
児童養護施設からの依頼
児童養護施設からの依頼
出生証明書
母は子どもを残し帰国。父は収監中
フィリピン人の両親のもと、日本で生まれたBさんは、児童養護施設で生活をしていました。児童相談所からCABに相談が寄せられたとき、Bさんは無国籍で、父親は刑務所で服役中、母親は大使館でBさんの出生登録の手続きをしないままフィリピンに帰国。母親は、その後、別の男性とフィリピンで生活を始めていたことがわかりました。
CABは、フィリピン社会福祉開発省のソーシャルワーカーに、母親を訪問し、出生登録に必要な書類を揃えてもらえるよう依頼しました。また、フィリピン大使館に、父親が収監されている刑務所への訪問を依頼し、父親からの出生登録書と認知宣誓供述書への署名を得ることができました。これらの書類から、Bさんの国籍取得が可能となりました。
取り寄せられる書類は両親の状況によって異なる
Bさんのケースは、実母や実父の所在が判明していたので、国籍取得に必要とされる書類を収集をすることができました。しかし、所在が不明な場合には、実母と実父の所在が不明である証明など、公的な書類に代わる調査や手続きが必要となります。CABは、個別のケースにあわせ、外国の関係機関や親族への連絡調整を柔軟におこないながら、国籍取得をサポートします。
※写真:CABから母親に郵送した所在確認の手紙。
宛先不明で返送されたが、所在確認を行った証明として国籍取得手続きで重要となる
外国籍の子どもの帰国後の養育環境をアセスメントした事例
児童相談所からの相談
児童相談所からの相談
報告書の一部
日本で行き場を失った少女
東アジアの国で生まれ、幼少期に両親と兄弟らと来日したAちゃん。高校生になる頃、家庭の事情や本人の問題行動により家族と一緒に住むことができなくなり、児童養護施設に入所しました。しかし、施設になじめず、そこで暮らし続けることも極めて困難となり、別の生活環境と養育者を探すことが必要になりました。
相談当初、Aちゃんにはこれ以上日本国内で利用可能な社会資源や公的制度がない状況でした。しかし、Aちゃんの両親の背景や、Aちゃん自身の性格や特性を伺うなかで、Aちゃんの出身国に住む親族による引き取りの可能性を探るため、私たちは親族のアセスメントを児童相談所に提案しました。
本国の親族と住むという選択肢ー調査から見えた祖母の意志
Aちゃんを担当する児童福祉司より正式にアセスメントの依頼を受け、私たちはISS支部を通じ、Aちゃんの出身国の公的機関に調査を依頼しました。その結果、Aちゃんの祖母の所在が判明し、公的機関のソーシャルワーカーが祖母にAちゃんのおかれている状況を説明しました。祖母は状況を深く理解し、Aちゃんの養育意志を表明しました。この報告書は、祖母の受け入れ意思、受け入れ能力、家庭環境など、Aちゃんの出身国への再定住を検討するために必要不可欠な資料となりました。
親族の所在確認、家庭訪問の実施、報告書作成までの一連の流れにおいて、国内外の関係機関や親族など、さまざまな関係者とのやり取りが発生します。CABの支援は、連絡調整を行いながら、子どもの課題解決に必要な選択肢を提示することを主眼においています。
外国で保護された日本人の子どもの帰国を検討するため
日本在住の親族のアセスメントを行った事例
海外の裁判所からの依頼
日本在住の親族のアセスメントを行った事例
海外の裁判所からの依頼
保護された子どもに対する裁判所の役割
西欧D国に住む、日本人の父とA国人の母の間に生まれた兄弟がいました。兄が中学生、弟が小学生の時に、父は病によって他界。その後2年、母親が子どもたちを育てていましたが、母はある犯罪によって収監されてしまいました。D国の公的な福祉機関は、養育者がいなくなってしまったこの兄弟を保護。D国の制度では、このように未成年者が保護された場合、裁判所が子どもにとって最適な環境を審判によって決定します。この兄弟のケースも同様に、保護された後すぐ、D国当局と裁判所が調査がはじめました。
国境を越え、養育者を探す
子どもたちの親族が母親以外にD国にはいなかったことから、D国裁判所は、D国に在住する父親の友人家庭と、日本に在住する父親の姉の家庭を、子どもの新たな環境として候補にあげました。裁判所は「家庭調査書(英:Home Study Report)」や、保護に至った経緯や背景をもとに、複数の候補の中から最終的な決定を下します。この調査の一環として、CABはD国裁判所から、父の姉の家庭調査と、その報告書の提出の依頼を受けました。CABソーシャルワーカーが姉夫婦の面談、受け入れ意思の確認、家庭訪問を実施。約2か月に渡る調査を経て、CABはD国裁判所に家庭調査報告書を提出しました。
審判の結果、兄弟ともに生まれも育ちもD国であることや、候補になった家庭環境の比較によって、子どもたちはD国に住む父の友人家庭で里子になることが決定しました。
子どもの最善の利益のために
この兄弟のように国や公的機関に保護された場合、受け入れることが可能なあらゆる選択肢を考慮した上で、裁判所が判断を下すことが諸外国、特に欧米諸国では一般的です。
子どもにとって最適な環境とは、保護された経緯、子どもの年齢や特別なケアの必要性など、様々な要因によって変化します。今回のケースのように、国をまたぐ移住の可能性を持つ子どもは、言語や文化の壁も生じます。家庭調査によって、子どもが直面しうる課題を表面化し、支援の幅を広げることにも繋がっていきます。
※本事例紹介は、プライバシーの保護のため、個人が特定できないように提示しています。